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災害時、ろう者に情報は届いているか ― 自治体が備えておきたい視点

避難所で、ろう者と手話サポーターが手話で会話しているイラスト

災害が起きたとき、避難指示や物資配布の案内は防災無線やスピーカー、口頭での呼びかけなど、音声を介したものがほとんどです。多くの人にとっては当たり前のこの仕組みが、聴覚に障害のある人にとっては命に関わる情報の壁になり得ます。

2026年7月28日に発生した熊本地震でも、そうした現実が浮き彫りになりました。宇城市松橋町の避難所に、自宅が被災したろう者5人が身を寄せました。60代の夫婦は、停電と断水が続いたことから翌日には避難所への移動を余儀なくされています。避難所では「周囲とコミュニケーションが取りづらい」という声が上がり、特に車の移動といった突発的な指示を受け取る場面で、意思疎通に時間がかかることが課題として浮かび上がりました。

こうした状況を支えたのが地域の手話サークルによる活動です。熊本県内の手話サークルのメンバーが「手話できます」と書かれたビブスを着用し、毎日避難所を訪れてろう者とのコミュニケーションの橋渡しを行いました。ボランティアの存在が、避難生活の孤立を防ぐ大きな支えになっていたことがうかがえます。

「音声中心の災害情報」が生む格差

災害発生直後は防災無線や広報車、消防団による呼びかけなど、音声による情報伝達が中心になります。停電や通信障害が重なると、聴覚に障害のある人にとって情報の空白がさらに広がります。東日本大震災では、聴覚障害者の死亡率が全体平均のおよそ2倍にのぼったという調査結果もあり、情報が届かないことが逃げ遅れに直結した実態が指摘されています。

避難所に入ってからも課題は続きます。物資配布や食事の案内が口頭中心だと、内容が理解できないまま支援を受けそびれてしまう。行列ができていても理由が分からず、孤立感を強めてしまう。さらに能登半島地震では仮設トイレの大半が段差のある和式で、身体にまひのある被災者に2階の「みなし仮設住宅」が割り当てられるなど、設備面でも障害者のニーズが十分に考慮されていない実態が報告されています。行政の支援は申請主義であることが多く、情報が届かなければ申請そのものができない、という構造的な問題も見過ごせません。

各地で進む「情報保障」の工夫

一方で、こうした課題に対応しようとする取り組みも各地で広がっています。

手話や字幕による災害情報の発信はその代表例です。避難所に手話・字幕付きのテレビを設置する自治体の計画や、気象庁の緊急会見への手話対応、南海トラフ巨大地震の被害想定を手話動画で解説する取り組みなどが進んでいます。スマートフォンの振動や通知機能を活用し、音以外の手段で情報を受け取る備えを日頃から呼びかける動きもあります。

コミュニケーション支援の面では、都道府県の枠を越えて手話通訳者を派遣する仕組みが始まっており、被災地からの要請を待たずに支援チームを送り出した事例も見られます。消防の現場では、タブレット端末を使った遠隔手話通訳システムを導入し、感染症リスクを避けながら円滑なやり取りを実現している自治体もあります。

より手軽な手段として、指さしで意思疎通ができる会話シートを筆談の補助として活用する取り組みも広がっていますが、文字を読むのに時間がかかる、要点を短くまとめる工夫が要るといった限界も指摘されており、手話が持つ表情を通じた伝達力を完全には代替できないという指摘もあります。

自治体として備えておきたいこと

これらの事例が共通して示しているのは、「音声だけに頼らない情報伝達の複線化」と「日頃からの地域とのつながり」の重要性です。防災マニュアルに聴覚障害者支援の項目が十分に盛り込まれていないケースも少なくなく、いざという時に支援が後回しになりがちだという指摘もあります。

災害時の情報保障は、当日だけの対応では間に合いません。ウェブサイトや防災アプリ、避難所運営マニュアルといった平常時の情報基盤に、どれだけ「音声以外の伝達手段」が組み込まれているか。ここに、備えの差が表れます。

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