「議事録も、資料のたたき台も、リサーチも、AIに任せれば数分で終わる」。そんな話を聞くたびに、便利になったと感じる一方で、少し引っかかることがあります。若手社員がこれまで担ってきた「下積み」の仕事が、そのままAIに置き換わってしまったら、彼らはどこで経験を積むのだろう、という疑問です。
実際、これは今、多くの企業が直面している悩みのようです。日本経済新聞電子版(2026年3月25日)によると、AIの導入によって新卒3年以内の若手社員に任せる仕事の内容が変わったと答えた企業は半数を超えています。「AIを使うことを前提にした新しい業務が増えた」「アウトプットの量やスピードをより求めるようになった」といった声が目立ちます。仕事のやり方が変わったこと自体は自然な流れですが、問題はその先です。日本経済新聞夕刊(2026年4月2日)の報道では、若手社員自身が「AIに頼りすぎることで経験が蓄積されにくくなるのでは」という不安を口にしていることも紹介されています。
「考える力」が失われる懸念
もうひとつ気になるのは、思考力や創造力への影響です。新入社員の半数以上が、生成AIを使うことで「自分で考え、生み出す力が落ちるのではないか」と感じているという調査結果もあります。就職活動中の学生や社会人になったばかりの人たちが、最も不安に感じているのもこの点だそうです。
考えてみれば、これは当然かもしれません。新人時代の下積み仕事は、単なる作業ではなく、業務の全体像をつかんだり、失敗から学んだりするための機会でもありました。データを集める過程で業界の勘所をつかむ。資料を何度も書き直す中で、伝わる文章とは何かを体で覚える。そうした遠回りこそが、後々の判断力につながっていたように思います。AIがその遠回りを丸ごと肩代わりしてしまうと、便利さと引き換えに、育つはずだった経験が育たなくなる。この懸念は、決して大げさな話ではないでしょう。
「使う側」に回した企業の工夫
一方で、この変化を前向きに使いこなそうとする企業の動きも出てきています。印象的なのは、若手社員がAIの使い方を管理職に教える「リバースメンタリング」を取り入れた例です。ある食品メーカーでは、若手を「AIリーダー」として位置づけ、上の世代がその知見を学ぶ場をつくっています。広告会社でも、経営幹部が20〜30代の社員からAIの活用法を教わる研修が好評だといいます。
これは単なる話題づくりではなく、理にかなった発想だと思います。AIに慣れているのはむしろ若い世代です。彼らを「AIに仕事を奪われる側」ではなく「AIを使いこなして価値を出す側」に回すことで、経験を積む機会そのものの形を変えてしまう。ある電機メーカーでは、AIアシスタントの導入とあわせて若手のフォロー体制を見直した結果、入社3年以内の離職率が大きく下がったという事例も報告されています。AIの導入がうまくいくかどうかは、ツールの性能以上に、それを人の育成にどう組み込むかにかかっているのかもしれません。
中小企業だからこそ、意識したいこと
大企業のような研修制度や人員の余裕がない中小企業では、この問題はより切実です。人手が少ない分、AIに任せられる仕事はどんどん任せたくなるのが本音だと思います。ただ、だからこそ「何をAIに任せ、何をあえて若手にやらせるか」を意識して線引きすることが大切ではないでしょうか。
たとえば、議事録の作成はAIに任せても、その会議の内容を踏まえてどう次の一手を考えるかは、あえて若手に考えさせてみる。データ集計はAIに任せても、そこから何を読み取るかは自分の言葉でまとめさせてみる。任せる部分と、あえて手を動かさせる部分を分けるだけで、経験の蓄積のされ方はかなり変わってくるはずです。求められるスキルとして「創造力」「課題を見つける力」「人と協働する力」が挙げられることが多いのも、こうした人にしかできない部分の重みが増しているからだと感じます。
弊社でもICT研修のご相談を受ける際は、AIを「作業の代替」としてだけでなく、「若手が考える時間を生み出すための道具」として位置づけることをお勧めしています。AIをどう使うかではなく、AIが空けてくれた時間で何を鍛えるか。その視点を持てるかどうかが、これからの若手育成の分かれ目になっていくように思います。