最近、弊社の問い合わせフォームに届く営業メールが、少し変わってきたように感じます。
以前の営業メールといえば、
「突然のご連絡失礼いたします」
「弊社では〇〇というサービスを提供しております」
「ぜひ一度お打ち合わせの機会をいただけませんでしょうか」
どの会社にでも送れそうな、いかにも定型文というものが大半でした。
しかし最近は、
「ホームページを拝見しました」
「〇〇についての記事を興味深く読ませていただきました」
「利用者の立場を大切にされている点に共感しました」
と、こちらのサイトをきちんと読んだことが伝わる文章が増えています。
さらに最近では、サイトに書かれている文言そのものを踏まえて
「〇〇という考え方、とても共感しました」
「〇〇という姿勢に、とても良いなと感じました」といった、いかにも共感したかのような具体的な文章が添えられているケースも見かけるようになりました。中にはさらに詳しく印象深い文章が付け加えられたものもあります。
読み始めは「わざわざ自分のサイトを読んでから連絡してくれたのか」と思うのですが、読み進めるうちに急に自社サービスの紹介が始まり、最後は「一度オンラインでお話ししませんか」という営業に落ち着く。そんなメールが目立つようになりました。
この変化の背景には、生成AIがあるのだろうと思います。
生成AIなら「相手に合わせた営業文」が簡単に作れる
ChatGPTなどの生成AIは文章を作るだけでなく、与えられた文章を読んで要約したり、特徴を拾い出したり、それをもとに新しい文章に仕立てたりするのも得意です。
営業担当者が相手企業のホームページをAIに読み込ませて、
「この会社の特徴を整理して」
「共感できそうなポイントを一つ挙げて」
「その内容に触れながら、自然な営業メールにして」
と指示するだけで、送り先ごとに少しずつ内容の違う営業文が短時間で仕上がります。
以前なら営業担当者が一社ずつサイトを読み、文章を考えなければならず、それなりに手間のかかる作業でした。それが今では大幅に短縮できてしまう。
これまで両立が難しかった「大量に送ること」と「一人ひとりに向けたように見せること」が、同時に成立するようになってきたわけです。
もっとも、これ自体がすべて悪いということではありません。相手のサイトをきちんと読み込んで、本当に響きそうな切り口を考えてから連絡する、という行為自体は、営業として本来あるべき姿とも言えます。
AIを使うこと自体が問題なのではなく、中身の薄い提案を、読み込んだように見せかけて大量に送りつけられる状態が問題なのだと思います。
本当にサイトを読んでいるとは限らない
こうした営業文には、いくつか気になる特徴があります。
記事のタイトルやサービス名には正確に触れているのに、感想の部分になると、
「大変参考になりました」 「素晴らしい取り組みだと感じました」 「非常に共感いたしました」
と急に抽象的になるケース。あるいは、サイトをかなり読み込んでいるように見えて、実際の事業内容を微妙に取り違えていることもあります。
もっとも、こうした特徴があるからといって、必ずAIが書いたとは限りません。人間が丁寧に調べて書いた文章かもしれませんし、AIの下書きを営業担当者が手直ししているだけかもしれません。
今は生成AIの普及に対するインパクトが大きいため、流暢な文体の営業メールが「いかにも生成AIを使った営業メール」という印象が強いこともあり、見分けがつきやすいということもあります。
一方で生成AIを使ったメール作成が普及して当たり前になってくると、文章だけを見て人間かAIかを確実に判断するのは、だんだん難しくなってくるかもしれませんし、判断自体の意味合いも変わってくるかもしれません。
だとすれば、AIかどうかを見破ること自体にはあまり意味がなくなってくる。大切なのは、その営業内容が自分にとって本当に役立つ提案かどうかかと(と最大限営業メールをフォローするように見せておいて実際はほぼスルーなのですが)。
問い合わせフォームにも影響が出てくる
この変化は、ホームページを運営する側にとってはやや厄介です。
問い合わせフォームは本来、相談や仕事の依頼を受け取るための窓口です。営業目的の問い合わせが増えると、本当に大事な問い合わせが埋もれてしまいかねません。
従来の迷惑メールは同じ文面を大量に送るものが多く、機械的に判定しやすい面がありました。ところが生成AIを使った営業文は一件ごとに文面が変わり、自然な日本語でサイトの内容にも触れてくるため、単純なスパム対策では見分けがつきにくくなってくると思います。
「サービスについての問い合わせ」「取材・講演依頼」「営業・サービスの提案」といった問い合わせ種別を設けたり、「営業目的の問い合わせには返信しません」とあらかじめ明記したり、営業提案だけ別の窓口に分けたりする、といった工夫が考えられます。
AIが営業し、AIが営業を振り分ける
近い将来、あるいはすでに、次のような展開になるのではと思います。
営業する側は生成AIを使って相手のホームページを読み込み、その会社向けの営業文を作る。一方で問い合わせを受け取る側も、AIで「これは顧客からの問い合わせ」「これは営業」「これは迷惑メール」と自動的に振り分けるようになる。
つまりAIが作った営業メールを、別のAIが営業だと見抜いて仕分けする。そんな構図です。
生成AIというと文章作成や画像生成が話題になりがちですが、実際には営業や問い合わせ対応、顧客管理といった、普段あまり意識しない場所にも少しずつ入り込んでいます。
最近届く「ホームページを拝見しました」という一通の営業メール。そこからも、生成AIがインターネット上のやり取りそのものを変え始めていることが見えてきます。